十字軍・植民地支配・日米戦争・現代のLGBT論争やワクチン問題――。善悪を二分するスローガンは恐怖と強迫観念から生まれ、グローバリズムを駆動してきました。その構造を年表で示し、日本的「話し合い文化」が示す処方箋を探ります。

◉ スローガンが編む「善悪二元論」の千年史
東郷潤先生は冒頭、十一世紀の十字軍を皮切りに、魔女裁判、植民地支配、産業革命以降の自由貿易強制、共産主義革命、日米戦争、テロとの戦い、温暖化・LGBT・BLM・ワクチン論争に至るまで、約千年にわたる「スローガン年表」を提示されました。
そこでは常に「正義 vs. 悪」の構図が作られ、悪とされた側は大量虐殺や文化破壊の犠牲になっています。

要点は二つ――
① スローガンが掲げられるたびに「自分たち=善」「敵=悪」という単純化が行われること、
② この単純化が続くことで人びとは「悪を攻撃すれば自分は善でいられる」という思考に依存してしまうこと。

先生はこれを「善悪中毒」と呼び、現代の情報空間がこの中毒を加速していると指摘されました。

◉ 恐怖と反復強迫――グローバリズムの心理的源流
次に先生は、善悪二元論の深層には「地獄への恐怖」「神の呪いへの恐怖」という一神教的観念があり、これが高所恐怖や閉所恐怖と同質の「反復強迫」を生むと説かれました。
人は善である保証を得るために、絶えず敵を作り、敵と戦う行為で安心を得る――それが十字軍以来の行動パターンです。
そしてこの精神構造が、近代以降には「グローバリズム」という装いをまとい、単一の価値観を世界に押し付ける原動力となっています。

さらに先生は「合法/違法」と「善/悪」の混同にも注意を促されました。
大麻・中絶・死刑・同性婚などは、国によって合法性が異なります。
しかし、それらがしばしば「悪の仲間」「悪に加担している」といった「属性」とされています。
これらはすべて、善悪二元論が生む錯覚です。

◉ 「シラス」の世界観と話し合い文化が示す克服のヒント
対照的に日本は、万物に神が宿ると見る「シラス(知らす)型」の世界観を培ってきました。
ここでは秩序も法も「人の幸せ」のためにあり、価値観は押し付けず調和を探る手段――つまり「話し合い」に重きが置かれてきました。

江戸以前に「議論(ディスカッション)」という語が存在しなかった事実は象徴的で、代わりに「あげつらう」「評議」「僉議(せんぎ)」など、立場を超え意見を合わせる語彙が豊富でした。

先生は、この話し合い文化こそ善悪中毒を解毒する鍵だと強調します。
「相手を論破して序列を確定させる」のではなく、「意見を照らし合わせ共同の着地点を探る」――それが恐怖を土台にした二元論を和らげ、多様な価値観を共存させる現実的な道です。

まとめとして先生は、
① 善悪を属性化する言葉遣いに自覚的であること、
② “敵を作ることで自分が善になる”という心理を見抜くこと、
③ 議論より話し合いを選び、価値観のすり合わせを丁寧に行うこと

この三つを実践すれば、千年続く反復強迫から一歩抜け出せると提言しました。

日本発の「シラス」的アプローチが世界のグローバリズム疲れに風穴を開ける可能性を、私たち視聴者も考える時期に来ているのです。

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