戦後の日本は、食糧不足と価値観の崩壊によって、混乱の中にありました。その最中、昭和天皇は全国を巡り、国民を励まし、復興へと導く旅を始められます。本稿では、その全国巡幸の意義と、佐賀県での感動的な逸話を通じて、昭和天皇の慈愛と国民の再生を支えた「真心」の力について考えます。
- 戦後日本の混乱と昭和天皇の御決意
未曾有の食糧危機と社会の崩壊
終戦後、日本は深刻な食糧不足に陥りました。戦争によって国内の生産基盤は壊滅し、600万人の引揚者が日本に戻ったことで、食料需要はさらに逼迫しました。政府による配給制度は機能せず、闇市が横行し、不衛生かつ暴力が支配する世界となりました。
日本人の多くは、それまで信じてきた価値観を根底から覆され、精神的にも荒廃していました。戦時中は「東亜の平和」や「皇国不滅」を信じていましたが、戦後は新たな規範を見出せず、恐怖と飢えに支配される日々を送っていたのです。
昭和天皇の決意「全国巡幸」
そんな状況の中、昭和天皇は全国巡幸を御決意されました。
「この戦争によって祖先からの領土を失い、国民の多くの生命を失い、たいへんな災厄を受けました。
この際、わたしとしてはどうすればいいのかと考え、また退位も考えました。しかし、よくよく考えた末、この際は全国を隈なく歩いて、国民を慰め、励まし、また復興のために立ちあがらせる為の勇気を与えることが責任と思う。」
昭和21年2月19日、神奈川県から始まったこの巡幸は、昭和29年の北海道まで足掛け8年半にわたって続けられました。総行程3万3000km、総日数165日。年間2000件以上の公務をこなしながら、天皇は全国を巡られたのです。
- 佐賀での奇跡――昭和天皇の慈愛が生んだ感動の瞬間
共産主義革命を目論む「引揚者」集団
昭和24年5月、昭和天皇は佐賀県を御訪問されました。この巡幸の最中、一団の「引揚者」たちが陛下を待ち受けていました。
彼らはシベリア抑留中に徹底的な共産主義の洗脳を受け、日本革命の先鋒となるべく帰国した者たちでした。彼らの計画は、昭和天皇に戦争責任を認めさせ、それを契機に全国で共産主義革命を起こすことでした。もし天皇が戦争責任を否定した場合、暴力を用いてでも責任を取るよう迫る手はずになっていたのです。
陛下の深々としたお辞儀と慈愛の言葉
昭和天皇は、その「引揚者」集団の前で足を止められました。そして、深々と頭を下げ、静かな声で次のように語られました。
「長い間、遠い外国でいろいろ苦労して大変であっただろうと思うとき、私の胸は痛むだけでなく、このような戦争があったことに対し、深く苦しみをともにするものであります。
皆さんは外国において、いろいろと築き上げたものを全部失ってしまったことであるが、日本という国がある限り、再び戦争のない平和な国として新しい方向に進むことを希望しています。
皆さんと共に手を携えて、新しい道を築き上げたいと思います。」
陛下の言葉は、決して戦争責任を否定するものでも、弁解するものでもありませんでした。ただひたすら、国民と苦しみを共にするという慈愛に満ちたお言葉でした。
涙と感動――革命計画の崩壊
はじめは天皇を糾弾するつもりでいた「引揚者」たちは、その言葉と人格に引き込まれていきました。そして、一人の青年が膝をつき、深々と頭を下げてこう言いました。
「天皇陛下さま、ありがとうございました。今いただいたお言葉で、私の胸の中は晴れました。
戦争さえなければ、私の人生は違ったものになっていたでしょう。しかし、天皇陛下さまも苦しんでいらっしゃることが、今、わかりました。
今日からは決して世の中を呪いません。人を恨みません。天皇陛下さまと一緒に、私も頑張ります!」
その瞬間、別の青年が声を上げて泣き出しました。
「こんな筈じゃなかった。こんな筈じゃなかった。俺が間違えていた。俺が誤っておった。」
続いて、数十名の「引揚者」たちも涙を流し、声を震わせながら同意しました。天皇を糾弾するはずだった集団が、涙を流しながら昭和天皇の慈愛に心を打たれたのです。
陛下は静かにうなずかれ、慈愛に満ちた微笑みをもって彼らを見つめられました。
- 昭和天皇の巡幸が示した「真心」の力
この佐賀での出来事は、日本再生の象徴ともいえる出来事でした。戦争によって価値観を喪失し、絶望の中にいた人々が、天皇の慈愛によって再び立ち上がる勇気を得たのです。
昭和天皇が全国を巡幸された意義とは、まさに「国民の真心を喚起する」ことでした。日本がどんなに困難な状況にあっても、我々が大切にすべきものは「真心」である・・・そのことを、今一度見つめ直す必要があるのではないでしょうか。
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