1952年、東大での劇団ポポロの公演に私服警官が入場し、それを発見した学生たちが暴行を加え警察手帳を奪取。裁判では大学自治や学問の自由が争点となった。本動画では、この事件を江戸時代の司法制度と比較し、日本の治安維持の変遷を考察する。
1 東大ポポロ事件とは——学問の自由と大学自治の攻防
1952年、東京大学で開催された劇団ポポロの演劇発表会に、私服警官が観客として入場しました。演劇の内容が反政府的と見られていたため、警察は監視を行っていたのです。しかし、警官の存在に気づいた学生たちは彼を取り囲み、暴行を加えた上で警察手帳を奪いました。手帳には、教授や学生の監視記録が記されており、この事実を知った学生たちはさらに憤慨しました。
この事件をきっかけに、学生2名が「暴力行為等処罰ニ関スル法律違反」で起訴されました。裁判では、警察の行為が大学自治や学問の自由を侵害したのかどうかが争点となりました。最終的に、裁判所は「学問の自由と自治は、政治活動には適用されない」との判決を下しましたが、この事件を契機に東大をはじめとする大学の左傾化が進み、学生運動の活発化を促す要因の一つとなりました。
2 江戸時代の治安維持と比較——暴力行為は幕府への反逆罪
東大ポポロ事件と同様に、権力への挑戦がどのように扱われていたかを考える際、江戸時代の司法制度と比較することが有益です。
江戸時代、奉行所の与力や同心に対して暴力を振るう行為は極めて重罪とされました。例えば、天明年間(1780年代)には、酒に酔った町人が奉行所の同心を殴打しただけで、市中引き回しのうえ打ち首になっています。さらに、文化年間(1804年頃)には、盗賊を捕らえようとした与力に対し町人が刃物で抵抗した結果、その場で斬殺されたうえ、家族も追放処分となりました。
幕府にとって、治安維持の要である奉行所の役人への暴力は、「幕府そのものに対する反逆」と見なされました。このような厳格な法の運用により、江戸の治安は極めて良好に保たれました。一方、戦後の日本では、GHQの影響により「警察は事件発生後にのみ対応すべき」という方針が導入され、予防的な取り締まりの権限が制限されました。その結果、治安維持の観点から見た警察の役割が大きく変化しました。
3 「ならぬことはならぬものです」——会津藩の什の掟に学ぶ
江戸時代の教育制度にも、社会秩序を維持するための規範意識が根付いていました。その代表例が、会津藩の什の掟です。これは、6歳から9歳の藩士の子供たちが10人前後の組を作り、日々順番に仲間の家に集まりながら、掟を学び、反省会を行うという仕組みでした。掟の中には以下のような項目がありました。
• 年長者の言うことに背いてはならない
• 嘘をついてはならない
• 卑怯なふるまいをしてはならない
• 弱い者をいじめてはならない
• 外で物を食べてはならない
• 婦人と言葉を交わしてはならない
• ならぬことはならぬものです
この「ならぬことはならぬものです」という考え方は、単なる道徳規範にとどまらず、社会全体の秩序を維持するための重要な柱となっていました。しかし、戦後の日本では「個人の自由」が強調されすぎた結果、社会的責任や秩序の維持が軽視されるようになりました。
東大ポポロ事件を通じて、「学問の自由」と「大学自治」の在り方が問われましたが、それ以上に重要なのは「学問とは何か」という本質的な問いです。本来、学問は実社会に役立つものであり、社会を良くするための知識を得ることが目的でした。しかし、近年では「学問の自由」の名のもとに、実生活とは乖離した活動や政治運動が横行するケースも見受けられます。このような風潮は、江戸時代の「実学」との違いを際立たせています。
4 まとめ——学問と秩序のバランスを考える
東大ポポロ事件は、日本の大学における学問の自由と自治の在り方を問う重要な事件でした。しかし、この事件が大学の政治化を加速させ、社会の秩序維持の観点から見るとマイナスの影響をもたらしたことも否めません。一方で、江戸時代には、奉行所の与力や同心に対する暴力は幕府への反逆とみなされ、厳しく罰せられました。この違いは、国家の在り方や社会秩序をどう考えるかという根本的な思想の違いを反映しています。
また、会津藩の什の掟のように、子供のころから「秩序を守ることの重要性」を学ぶ機会があれば、社会全体のモラルや倫理観は維持されやすくなります。しかし、現代ではそのような教育が薄れ、個人の権利意識ばかりが先行する傾向があります。
学問の自由や大学自治は重要ですが、それが社会秩序の維持とどう両立できるのか。今回の動画では、東大ポポロ事件と江戸時代の司法制度を比較しながら、日本の治安維持や社会の在り方について考察しました。
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