昭和20年、伊58潜水艦が原爆を運んだ米艦インディアナポリスを撃沈。後にその艦長マクベイが軍法会議にかけられるが、日本の橋本艦長は敵国の法廷で「ジグザグ運動をしていても撃沈できた」と証言。真実を貫く姿勢が静かな共鳴を生みました。

【1】撃沈された原爆輸送艦──伊58の攻撃と戦果

昭和20年7月30日、日本海軍の伊号第五八潜水艦(伊58)は、アメリカ海軍の重巡洋艦「インディアナポリス」を撃沈しました。この艦は、広島・長崎に投下された原子爆弾の部品を運び終え、テニアン島からフィリピン・レイテへと向かう航海中でした。

伊58は「回天特別攻撃隊・多聞隊」に所属し、当時の艦長は橋本以行少佐(後に中佐)。九五式魚雷を6本発射し、うち2本が命中。1本は右舷に命中し、続く魚雷が開いた穴から艦内に侵入して爆発し、弾薬庫を誘爆させました。インディアナポリスは12分で沈没し、これが第二次世界大戦中、敵の攻撃によって沈んだ最後のアメリカ海軍水上艦となりました。

【2】軍法会議と不可解な有罪判決──敵艦長が語った“真実”

しかし、この事件の後日談が衝撃的です。

インディアナポリス艦長チャールズ・B・マクベイ3世は、ジグザグ航行(対潜回避行動)を怠ったという理由で軍法会議にかけられ、有罪とされました。ところが、実際にはマクベイ艦長はジグザグ航行をしていたという記録も残っており、さらに重要なのは――

伊58艦長・橋本以行少佐が証人として軍法会議に出廷し、「たとえジグザグ航行をしていても撃沈できた」と証言したのです。

つまり、敵国の軍人が、正々堂々と“敵のために”弁護を行ったのです。しかしそれでも、マクベイ艦長は有罪となり、軍を退役。遺族からの非難を一身に受け、1968年、自ら命を絶ちました。

当時、アメリカが戦争で沈められた艦は約700隻ありましたが、軍法会議にかけられた艦長はマクベイただ一人です。これは単なる過失の問題なのか、それとも原爆の事実を隠したいという政治的背景があったのか――疑問が残ります。

【3】政治を超えて語られた“誠”──橋本艦長の生き様

事件から半世紀以上が過ぎた1990年代末、当時12歳の少年ハンター・スコットが映画『ジョーズ』で事件を知り、調査を開始。「マクベイの裁判は誤審ではないか」と米議会に訴え、2000年、ついにアメリカ議会はマクベイ無罪を決議。大統領ビル・クリントンも署名しました。

けれどもそのわずか5日前、橋本元艦長は静かに逝去していました。彼はマクベイの名誉回復を知らずにこの世を去りました。

この一連の流れの中で浮かび上がるのは、橋本艦長の姿勢です。彼は政治的意図も保身もなく、ただ「事実はこうだった」と証言しました。敵をかばうなどという感情ではありません。軍人として、公明正大に、誠をもって、真実を語ったのです。

この姿に、観る者・聴く者は心を震わせるのです。

【結び】騒がずとも、響く誠──いま問われる日本人の生き方

今日の歴史を振り返るとき、我々は善悪や勝敗にとらわれる必要はありません。
むしろ問われているのは、「どう語るか」ではなく「どう生きるか」です。

沈めたのは魚雷。
けれど、貫いたのは“誠”。

正々堂々、公明正大。
騒がず、叫ばず、ただ静かに真実を語る。
そのような生き様こそが、日本人の誇りであり、
まさに「武士道」の魂であると感じます。

政治よりも真実。
ウソよりも、真(まこと)──。

そうした思いをもって、このお話を語らせていただきました。

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