1882年6月5日、嘉納治五郎が東京・下谷に講道館を創設。柔道は「精力善用・自他共栄」の理念をもとに発展し、教育の柱としても世界に広がりました。特にフランスでは非行防止にも成果を上げています。
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◉ 嘉納治五郎と講道館──柔道誕生の瞬間
1882年6月5日、東京・下谷稲荷(現在の台東区東上野)にある永昌寺で、若き教育者・嘉納治五郎が12畳の部屋を使い、「柔道」の道場を開設しました。
これがのちに「講道館」と呼ばれる、日本柔道の聖地となります。
嘉納先生が目指したのは、単に敵を倒す「術」ではなく、人間としての生き方を鍛える「道」でした。
その理念が「精力善用」「自他共栄」です。
・精力善用:自分の力を良いことのために使う
・自他共栄:自分と他人がともに成長し、栄えること
この2つの原理は、単なる武術やスポーツの枠を超え、教育や人格形成の中心的な価値として評価されていきます。
◉ 起倒流から始まった柔道の系譜
嘉納先生が学んだ流派は「起倒流(きとうりゅう)」という柔術でした。
起倒流は、安土桃山時代に茨木又左衛門が創始したもので、当初は「乱」と名付けられていましたが、これを聞いた臨済宗の名僧・沢庵和尚が「乱起倒流」と名づけ直したという逸話が残っています。
この流派の特徴は、単なる勝利主義ではなく、相手を立ったまま制する「体術」に加え、兵法としての深い戦略的な思考があったことです。
柳生流で学び、大軍を指揮する武将としての器量を備える「兵法指南所」の思想を背景に、精神性と戦術性を兼ね備えた教育体系がそこにはありました。
嘉納治五郎はこの起倒流の教えに感銘を受け、これを近代における「柔道」として昇華させたのです。
◉ フランスでの柔道──教育と共生の実践
いまや柔道は、日本のみならず世界140か国以上で親しまれる武道となりました。
なかでも特筆すべきはフランスでの柔道の受け入れと評価です。
フランスには約60万人もの柔道家がおり、日本に次ぐ柔道大国です。
柔道はスポーツとしてだけでなく、学校や大学の正式な教育科目にも採用されています。
特に注目されるのは、フランスでの柔道が青少年の非行防止や社会統合に大きな成果を上げているという点です。
教育現場で柔道を取り入れた学校では、
・暴力行為が減少
・集団行動が可能に
・生徒が進学や就職に自信を持つようになった
という変化が報告されています。
これはまさに、「精力善用」「自他共栄」という嘉納治五郎の教えが、フランスの教育の中で実を結んでいる証です。
◉ 本物の柔道とは何か──精神修養としての“道”
近年、スポーツ化する柔道の世界では「勝ちさえすればよい」という風潮が一部に見られます。
しかし本来の柔道は、心を鍛える道です。
たとえ身体的に強くとも、精神性を伴わなければ本物とは言えません。
たとえば戦前の講道館柔道を学んだ70代のお年寄りが、オリンピック代表選手を軽々と投げ飛ばしたという実話があります。
そこには「道」としての柔道が、どれほど深く、強く、人を育てていたかが表れています。
柔道とは、
・相手と対話しながら生きる「共生」の実践であり、
・力を正しく使い、自分と他者のために尽くす「道」であり、
・その教えをもって、世界に平和と秩序をもたらす手段でもあるのです。
◉ おわりに──12畳から世界へ
嘉納治五郎が12畳の部屋から始めた柔道は、いまや世界中で「人格教育」の中核を担う武道となりました。
柔道とは、人間の尊厳と、社会の調和を築く道。
だからこそ、単なるスポーツではなく、「教育」であり「文化」なのです。
6月5日は、そんな“道”の始まりを記念する日です。
この日をきっかけに、私たちもまた、自分自身の「道」を見つめてみませんか😊?
