チャゴス返還とディエゴ・ガルシアの基地存続を軸に、国際法と現実の力学を整理。植民地主義の残滓、ICJ判決と実効支配のギャップ、日本の領土・基地問題への示唆、そして賢い“しっぺ返し”運用を提案します。
Ⅰ チャゴス諸島問題とは――植民地の負の遺産が今も動かす現実
番組ではまず、チャゴス諸島の来歴から丁寧にたどりました。
チャゴスは長くイギリスの支配下に置かれ、1965年にモーリシャス独立を控えた時点で切り離され、再編成された英領インド洋地域(BIOT)に組み込まれました。
これは非植民地化の潮流に逆行する措置であり、その過程で多数の島民が米英の基地建設を理由に強制移住させられています。
植民地主義が残した「過去の不正義」が、当事者の生活と尊厳を奪い、国際政治の火種として今も続く――この一点を正面から押さえました。
2019年、国際司法裁判所(ICJ)は「チャゴス諸島はモーリシャスに返還されるべきだ」という勧告的意見を示し、同年の国連総会決議も返還を支持しました。
にもかかわらず、現地の実効支配は動いてこなかった背景に、軍事・地政学上の“重さ”が横たわっています。
番組では、その後の進展として、チャゴスの一部返還が実現する一方、最大の島ディエゴ・ガルシアについては長期(99年)の米英基地存続が決まった点にも触れ、「法の理念」と「安全保障の現実」がせめぎ合う局面を具体的に描き出しました。
この対比は単なる出来事の羅列では終わりません。
強制移住という人権問題、主権と基地の共存という制度設計、国連・ICJの権威と実効性のギャップ――それぞれが重なり、正義が力に劣後する場面を生みます。ここで投げかけた問いは明快です。
国際法は「正しさ」を提示する。しかし現場を動かすのは、しばしば「力」である。
では、その溝をどう埋めるのか。ここから議論は、日本の現状と解法へと進みます。
Ⅱ 国際法と現実の力学――なぜディエゴ・ガルシアは動かないのか
力が優先される理由として、番組ではディエゴ・ガルシア基地の位置づけを整理しました。
インド洋中央の要衝に位置し、中東・アフリカ・南アジア・東南アジアまで射程に収める前進拠点は、冷戦期から現在に至るまで代替が極めて困難です。
補給・監視・展開速度の観点で卓越した地理的優位が、米英にとって基地維持を「安全保障上の合理」として固め、返還勧告や国連決議より強く働く――この“硬いロジック”を避けて通ることはできません。
ここで浮かび上がるのが、「国際法の理念」と「現実の運用」の二層構造です。
ICJの勧告や国連決議は方向性の旗印を掲げ、正義の座標軸を与えます。
ところが、具体の移行設計――主権の取り扱い、基地の地位、住民の権利回復、環境保全と軍事の両立といった制度設計が曖昧なままだと、現場は動きません。
番組ではこの点を踏まえ、「正義=旗」「力=推進力」「設計=変速機」という比喩で整理しました。
旗だけでも、エンジンだけでも車は前に進みません。
旗が進む方向を示し、エンジンが駆動を与え、変速機が路面条件に合わせてトルクを配分する。
国際問題の解決も同じで、理念(国際法)×現実(安全保障)×設計(制度の段階図)がセットになって初めて前進します。
そのうえで、チャゴスの現実から日本の課題を照らしました。
沖縄の基地集中、尖閣への圧力、竹島の不法占拠、北方領土の停滞――いずれも「正義(法)」と「力(実効支配)」の狭間にあります。ここで学ぶべきは次の三点です。
1.国際法は必要条件であり、十分条件ではないこと。
2.実効支配を維持・回復・強化する現実的手段(抑止・経済・情報・同盟)が要であること。
3.過去の不正義を正すには、法・外交・国民意識を三位一体で長期運用する覚悟が欠かせないこと。
この「三点セット」を、目の前の政策や行動へ落とし込めるかどうかが試されます。
Ⅲ “しっぺ返し”の作法――海幸山幸が教える二段構えの解決
番組後半では、古事記「海幸山幸」の物語を手がかりに、賢いカウンターパワー(しっぺ返し)の運用を現代に翻訳しました。
山幸彦は潮満珠で相手を制し、潮干珠で救います。
報復で終わらせず、力を示したうえで共存秩序へ戻す二段構えが肝要です。
現代流に置き換えると、次の原則になります。
● 第一段階(抑止)
不条理に対しては明確なコストを伴う対抗措置を用意し、「暴力や違法は得にならない」と相手に理解させます(軍事・経済・法執行・情報の総合抑止)。
● 第二段階(和解・設計)
相手が引いたら、ただちに緊張を下げて第三の選択(協定・共同管理・デュアルユース・人道措置)に移行します。
この作法を日本の課題へ応用すると、輪郭が見えてきます。
軍事力→ 抑止と安心の力に。単に脅すのではなく、相手が合理的に「手出しは損」と判断する隙のない体制を整えます。
経済力→ 共に豊かになる力に。制裁・制限という“潮満”のカードを持ちながら、引けば再開できる“潮干”のレール(ルール・KPI・透明性)を先に敷いておきます。
文化力→ 心を結ぶ力に。国際社会へ「和」と「共生」の物語を示し、孤立ではなく共感を集める。
ここで重要なのは、心と制度の二層運用です。
心が荒れていると、しっぺ返しは単なる意趣返しになり、恨みを増幅させます。
だからこそ、国内では食料安全保障や産業基盤を整え(しっぺ返し可能な実力)、同時に教育・教養を高めて「引き際」を誤らない文化資本を育てる。これが、海幸山幸の現代版です。
チャゴスのケースに引きつければ、主権の象徴を回復しつつ(旗)、基地は期限付き・条件付きで運用(力)、四者(モーリシャス・英・米・チャゴス人)共同の管理設計へ段階移行(変速機)――こうした段階的・重層的な合意形成が、正義と力のねじれをほどく鍵になります。
番組の結びで共有したメッセージはシンプルです。
最強の力とは、相手を倒す力そのものではなく、倒せる力を持ちながら、響き合う秩序に転換できる力。
チャゴスは、その難題を「制度設計」で乗り越える実験場ではなく、模範解の候補にできます。
ここから日本が学び、実装の職人として世界に貢献していきたい――その思いで本編をお届けしました。
学びを楽しく、次の一歩へ。
【所感】
米軍がチャゴスに基地を置いているのは、中東の石油支配による利権を保持し、そのために必要な力を行使できる状況を意図的に作り上げているからです。その裏には、もし抵抗されたらどうするのかという恐怖があります。つまり、植民地支配の背景には常に「恐怖と暴力と利権」が横たわっています。
けれど、その「恐怖と暴力と利権」に打ち勝つ方法を、私たち日本人は知っています。それが「共震共鳴響き合い」の力です。心と心が共に震え、共に響き合うとき、恐怖は消え、暴力は不要になり、利権にとらわれない新しい関係が生まれます。
私たちが、この響き合いを根本に据えるとき、人類は歴史上はじめて「恐怖と暴力と利権」による支配を乗り越えることができます。いま私たちは、その扉を開く切符をすでに手にしているのです。



