先の大戦で戦地に赴いた若者たちは、誰からも「将来有望」と期待された甲種合格の息子たちでした。それでも母たちは、祖父母たちは、我が子を戦場へと送り出しました。そこにあったのは、狂気でも洗脳でもなく、未来の子孫が「人間として生きる」ための、静かで深い覚悟でした。この文章は、勝敗や責任論では語れない、あの時代の親たちの心に、そっと耳を澄ます試みです。

先の大戦で外地に行った兵隊さんたちは、
いわゆる「甲種合格者」でした。

今で言えば、
成績はクラスで一番、運動神経も抜群、身体も丈夫、性格良好。
学校でも家庭でも、「この子は将来有望だ」と誰もが思う子たちでした。

親にとっては、
祖父母にとっては、
それこそ目に入れても痛くないほど、可愛い息子でした。

そんな我が子を、我が孫を、
どうして戦地へと送り出したのでしょうか。

行けば、死んで帰るか、
よくて手足のどこかを失って戻ってくるのです。
五体満足で帰れる子の方が、むしろ稀だった時代です。

それでも、親たちは、
祖父母たちは、
我が子を戦地へと送り出しました。

なぜでしょうか。

みんな、分かっていたのです。
もし負ければ、日本人は「人間」として扱われなくなる。
猿同然に見なされる世界が待っている、ということを。

当時の世界は、
白人が頂点に立ち、有色人種は劣るという価値観が
ごく当たり前に、国際社会を支配していました。
そんな時代が、500年続いていました。

昔の日本は子沢山でした。
戦地に行く息子には、兄弟や姉妹がいました。
その兄弟姉妹が結婚し、子を産み、孫が生まれる。

その子孫たちが、
未来においてもずっと、
「劣った存在」として生きなければならないとしたら――。

そのことを思えば、
たとえ我が子を失うことになっても、
人として胸を張って生きる道を選ばせなければならない。

そうした覚悟が、
あの時代の親たちには確かにあったのだと思います。

だから、日本の兵隊さんたちは、
十倍、二十倍の敵を前にしても、一歩も引かずに戦いました。

そして、遺書の多くには、
必ずと言っていいほど、こう書かれていました。

「おかあさん……」

ここで、ひとつ考えておきたいことがあります。

他国の兵士たちは、どのように戦場へ向かったのか、という点です。

国や時代によっては、武器を持った集団が村に押し入り、
若い男子を意思とは無関係に連れ去り、兵士にした例もありました。
そこに、家族との別れも、覚悟を固める時間もありません。

また、アメリカの場合は志願兵制度でしたが、
その多くは貧困から抜け出すための選択でもありました。

どれが正しく、どれが間違っているという話ではありません。
ただ、戦場へ向かう「入口」が違えば、
人の心のあり方も、行動も、大きく変わってしまう。
入口に「覚悟を持てる構造」があることと、最初から「覚悟を奪われる構造」の違い。
世界では、兵士の残虐性を示す事件が数多く報告されていますが、
兵士の節度は、民族性ではなく「入口」で決まるのかもしれません。

日本の兵士たちが最後まで「母」を呼び、
戦後も恨みを語らず、黙々と社会を立て直していった背景には、
出征の瞬間にすでに「守るべきもの」が心に置かれていた、
という事実があったのではないでしょうか。

それは決して、弱さのための言葉ではありません。
自分が何のために戦っているのかを、
誰のために命を使っているのかを、
一番よく分かっていたからこそ出てきた呼びかけだったのだと思います。

戦後も、同じです。

外地から帰還した元兵隊さんたちは、
敗戦の現実を受け止めながら、
「それでも日本人が人間として認められる世界をつくろう」と
懸命に生きました。

その積み重ねが、
やがて日本を高度経済成長へとつなげていきました。

また、アメリカの中にも、
「有色人種を猿扱いするのはおかしい」と考える人たちがいました。
そうした人たちが、日本を支援してくれました。

会ったことはなくても、
言葉を交わしたことがなくても、
心はつながる。
だから支援が生まれたのだと、私は思います。

けれど――
こうした切り口で語られた戦争の話は、ほとんど見かけません。

勝ったのは誰か。
負けた責任は誰にあるのか。
誰が悪かったのか。

そんな話ばかりが、今も繰り返されています。

でも、それだけで、
あの時代を本当に理解したことになるのでしょうか。

私はそうは思いません。

歴史とは、
「誰を裁くか」を決めるためのものではなく、
「もし自分がその時代に生きていたら、どう生きただろうか」
そう静かに問いかけるためのものだと思っています。

あの時代を生きた人たちの、
痛みと覚悟に心を寄せること。

そこからしか、
本当の学びも、未来への道筋も、生まれないのではないでしょうか。

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