蓬莱の玉の枝は、本当に「天の山」から来たものだったのでしょうか。この章で描かれているのは、単なる求婚譚ではありません。金と技術と物語が結託したとき、人はどれほど簡単に「偽物の真実」を信じてしまうのか――その恐ろしい仕組みが、千年前の物語の中に、すでに描き込まれています。かぐや姫が見抜いた「光」とは何だったのか。現代の私たちの文明を照らし返しながら、この章の核心を読み解いていきます。

「竹取物語」
第1章 生い立ち
第2章 よばひと五人の求婚者
第3章 仏の御石の鉢
第4章 蓬莱の玉の枝
第5章 火鼠(ひねずみ)の裘(かわごろも)
第6章 龍の首の玉
第7章 (つばめ)の子安貝
第8章 帝の懸想(けそう)
第9章 かぐや姫の昇天

第四回 蓬莱の玉の枝(現代語訳)

車持皇子(くるまもちのみこ)は、たいへん策略に長けた人物でした。
表向きには「筑紫(九州)へ湯治に行く」と言って暇を願い出し、かぐや姫のもとには「玉の枝を取りに行きます」と言い残して出発しました。

家来たちは皆、難波(大阪)まで見送りましたが、皇子は「人目を忍んで」と言って、少人数だけを連れて船に乗りました。見送る人々には「遠くへ旅立った」ように見せかけておいて、実は三日ほどでこっそり引き返してきたのです。

あらかじめ命じておいたとおり、内匠(宮廷の工匠)六人を集め、人目につかない厳重な工房を三重の囲いで作らせ、皇子自身もそこにこもって、十六日ほど昼夜を問わず炉に火を入れ、かぐや姫の言ったとおりの「玉の枝」を作らせました。銀を根に、金を幹に、玉を実にした枝――見事に本物そっくりの枝が出来上がりました。

それを密かに難波へ運び、「船で旅から戻ってきた」と宮中に知らせ、あえて疲れ切った旅人のような姿で待ち構えていました。
迎えの人々が大勢集まり、玉の枝は長櫃(ながびつ)に入れ、覆いをかけて運ばれました。

やがて都で噂が広まりました。
「車持皇子が、優曇華(うどんげ)の花を持って帰ってきたぞ!」と。
噂を聞いたかぐや姫は、「私はこの皇子に負けてしまうかもしれない」と、胸を締めつけられる思いをしていました。

やがて門が叩かれ、「車持皇子がお着きになりました」と告げられました。
旅姿のままの皇子が現れ、「命を捨てる思いで、この玉の枝を持ち帰りました」と言って、翁にそれを渡しました。

枝には歌が添えられていました。

 いたづらに 身はなしつとも 玉の枝を
 手をらでさらに 帰らざらまし
(意味)この身がどうなろうとも、この玉の枝を手に入れずに帰ることなどできませんでした。

翁は感動し、
「一点の疑いもなく、蓬莱の玉の枝です。
 これはもう、この皇子をお断りする理由はありません」と言い、かぐや姫に早く会うよう勧めました。
しかし、かぐや姫は黙り込みました。頬杖をついて深く嘆くばかりでした。

皇子は縁側へ上がり込み、翁も「この国にないはずの玉の枝。人柄も立派」と、すっかりその気になっていました。
かぐや姫は、
「親の言うことを拒むのもつらい。
 でも、こんなに簡単に、あり得ないものが手に入るのが怪しい」と疑念を抱いていました。

そこで翁が、
「どこでこの木を手に入れられたのですか」と尋ねると、皇子は長々と、恐ろしい海の冒険談を語り始めました。
嵐、鬼のような怪物、飢え、病、漂流……五百日以上も海をさまよい、ようやく海に浮かぶ美しい山――蓬莱山にたどり着き、「ほうかんるり」という名の天女から水をもらい、そこで玉の木の枝を折ったというのです。

翁はすっかり感動し、和歌を詠みました。

 呉竹の よよのたけとり 野山にも
 さやはわびしき ふしをのみ見し
(意味)竹取りのような苦労を、あなたは本当に積み重ねてこられたのですね

皇子も喜び、返歌しました。

 わが袂(たもと) けふかわければ わびしさの
 ちくさのかずも 忘られぬべし
(意味)今日その苦しさが報われました。

ところが、そのとき、六人の男たち(工匠)が庭に現れ、一人が文書を差し出しました。
「この玉の枝を作った工匠たちに、報酬をお与えください。千日以上、力を尽くしました」

翁は驚き、皇子は血の気が引きます。
かぐや姫が文を読むと、そこにはこうありました。
「皇子は千日以上、工匠たちと一緒にこもり、玉の枝を作らせました。
 それは、かぐや姫の求めに応えるためでした」

すべてが暴かれました。
かぐや姫は、心から晴れやかになり、翁に言いました。
「本物の蓬莱の枝だと思っていましたが、ただの虚構でした。
 今すぐお返しください」

そして和歌を返しました。

 まことかと 聞きて見つれば ことの葉を
 飾れる玉の 枝にぞありける
(意味)本物だと聞いて見てみたら、言葉で飾っただけの偽物でしたね。

玉の枝は返され、工匠たちは厚く報酬を受け取りました。

ところが皇子は怒り狂い、工匠たちを打ちのめし、彼らは報酬を捨てて逃げていきました。

皇子は「女を得られなかったことより、天下に恥をさらしたことの方が耐えがたい」とつぶやき、深い山へ入って、二度と姿を現しませんでした。
これが「たまさかる(魂が裂ける)」と言うようになったはじまりです。

【第四章 解説】蓬莱の玉の枝― 金・技術・物語が結託すると、真実は“本物の顔”をする

1 車持皇子は「行っていない」

まず、この章で最も大切な事実から。
車持皇子は――蓬莱山へ行っていません。
三日で帰ってきています。
にもかかわらず、
 ・ 難波に船で出た
 ・ 長い航海をした
 ・ 命がけで帰った
という「旅の物語」を、組み立てています。

ここにすでに、現代のフェイク構造の原型があります。
行っていないし、見ていないし、触れてもいないのに、行ったことにしています。
こういうことが成立する文明を、竹取物語は描いています。

2 工匠=「技術者」と「メディア」

皇子が最初にやったことは、「内匠六人を集めた」ことです。
これは、いまで言えば、技術者、職人、デザイナー、映像編集、広報担当者らを集めた、という意味です。
そして彼らにやらせたことは、
「蓬莱の玉の枝を作ること」ではなく、
「本物に見える玉の枝を作ること」でした。

つまりここで、技術を「真実の代用品」に仕立てています。

3 玉の枝の正体

この枝は、銀を根に、金を幹に、玉を実にした人工物です。
これはまさに、カネと技術で作られた「価値のイメージ」そのものです。
それは、自然の蓬莱山ではなく、神の山でもなく、ただ「価値があるように見える物」でしかありません。

4 噂=フェイクニュース

さらに恐ろしいのはここです。
都で噂が流れたというのです。
「車持皇子が優曇華の花を持って帰った」

このフェイクニュースは、誰が言ったのでしょうか?
証拠は?、見た人は?――いません。
しかし噂が拡散しています。

これはまさに、メディアと世論が、偽の価値を事実にしてしまう、情報操作の構造と同じです。
かぐや姫が「負けるかもしれない」と思ってしまったのは、この社会的な空気に呑まれたからです。

5 「物語」が最後の武器になる

皇子はさらに、壮大な冒険譚を語っています。
嵐、鬼、漂流、天女、蓬莱山・・・
これらは、ストーリーテリングによる権威化です。

人は、「事実」より「物語」に弱い。
現代の、大手メディアが行う、政治・宗教・広告・戦争プロパガンダと同じ構造です。

6 それを破るもの=工匠の請求書

この完璧な虚構を破ったのは、たった一枚の「請求書」でした。
工匠が、「千日以上作りました。給料をください」と言って来たのです。
つまり、労働と現実の記録が、虚構を破ったのです。

これがすごいところです。

竹取物語は言っています。
偽の神話は、現実の労働によって破られる!

7 かぐや姫の一刀

かぐや姫の歌は、言葉で飾っただけの偽物の価値への死刑宣告です。
 まことかと 聞きて見つれば ことの葉を
 飾れる玉の 枝にぞありける

これは、金でもなく、技術でもなく、物語でもなく、そこに「光」がないということです。

8 皇子が壊れた理由

皇子が山に消えた理由は、女を失ったからではありません。
「天下に恥をさらした」からです。
このことは、
 虚構で世界を騙そうとした文明人が、
 真実に晒された瞬間の崩壊
を意味します。

現代の企業、政治家、宗教、国家でも起きている現実です。

9 この章の本当の意味

この章は、
「技術と金と物語が結託すると、世界は簡単に「偽物の真実」を信じる」
と述べています。
しかし、光(=実在・労働・命)は誤魔化せない。

この物語でいう「光」とは、キラキラした見た目のことではありません。
実際にそこに「生きた時間」があるか、命を賭けたか、手間と痛みと誠実さが入っているか、ということです。

たとえば前回の章で、「本物の仏の鉢は光る」とされていました。
それは金属に光沢があるという意味ではなくて、そこに祈りがあり、そこに人の苦しみがあり、そこに癒しが起きてきたことの積み重ねの「重み」のことです。

車持皇子の枝は、
 ・ 金でできている
 ・ 宝石がついている
 ・ 工匠が技術を尽くした
 ・ みんなが噂で「すごい」と言った
だから、目には光って見える枝です。

けれどそこには
 ・ 皇子自身が苦しんだ時間も
 ・ 命を賭けた行為も
 ・ 自然との出会いも
 ・ 神と向き合った痕跡も、一切ありません。
つまり、中身が空っぽな、ただの金属の光沢でしかありません。

光とは、実在・労働・命のことです。
本物の仏の鉢は祈りと癒しの「重み」で「光る」のです。
玉の枝には、金属の光沢しかありません。

そして、工匠たちの請求書が来た瞬間、この枝の正体がバレました。
「これは天の山から来たものじゃなくて、人の工房から来た物だ」とバレたのです。
これは、「現実の労働が、偽物の神話を破った」ということです。

これが「光は誤魔化せない」という意味です。

蓬莱山は、本来、苦しみも死もない、永遠の楽園の象徴です。
車持皇子はそれを、金と技術と物語で再現しようとしました。
これは現代でいうと、
 ・ お金で幸せを買う
 ・ 技術で理想郷を作る
 ・ 物語(広告・思想)で意味を与える
という文明の姿と同じものです。

見た目は楽園でも、そこ「生きた光」がない。
文明が作る「フェイクの楽園」でしかないのです。

どれだけ金と技術と物語で飾っても、そこに「本当に生きた時間と誠実さ」がなければ、それは楽園ではなく、空虚でしかない、ということです。

昔、遣唐使が往来していた頃、日本から輸出されるのは金銀や刀剣類などの技術工芸品でした。
これが唐の国で、高値で飛ぶように売れました。
一方、その売れたお金で日本が買ってくるのは、仏教の経典や枯山水の絵巻物など。すべて火をつければ燃えてなくなるようなものばかりでした。

どうしてか。
教典や絵巻物そのものに価値を置いていたのではありません。
教典から得られる学びや、枯山水からの受ける魂の浄化・・つまり、人が生きるための誠実さを得ることに、日本人は価値を見出していたのです。
モノに価値があるのではないのです。
誠実であることによって得られる、魂の浄化や成長に価値を置いていたのです。

つまり、遣唐使は、モノを売って、魂を買ってきていたのです。
物質を手放して、誠実さを受け取っていたのです。

車持皇子の蓬莱の玉の枝は、文明が作る「偽物の楽園」の象徴です。
かぐや姫が求めたものは、魂の誠実さです。

この章で描かれているのは、文明が、自分の作った虚構に呑まれて崩壊する瞬間です。
そしてそれを壊すのは、技術でも、金でも、物語でもなく、
「汗を流して働いている民衆の記録」だと書いているのです。

竹取物語は「未来文明の予想図」を千年前に描いています。

【原文】蓬莱の玉の枝

車持皇子は心たばかりある人にて、公には、「筑紫の國に湯あみに罷らん。」とて、暇申して、かぐや姫の家には、「玉の枝とりになんまかる。」といはせて下り給ふに、仕うまつるべき人々、皆難波まで御おくりしけり。皇子「いと忍びて。」と宣はせて、人も數多率ておはしまさず、近う仕うまつる限して出で給ひぬ。御おくりの人々、見奉り送りて歸りぬ。「おはしましぬ。」と人には見え給ひて、三日許ありて漕ぎ歸り給ひぬ。かねて事皆仰せたりければ、その時一の工匠たくみなりける内匠うちたくみ六人を召しとりて、容易たはやすく人よりくまじき家を作りて、構を三重にしこめて、工匠等を入れ給ひつゝ、皇子も同じ所に籠り給ひて、しらせ給ひつるかぎり十六そをかみにくどをあけて、玉の枝をつくり給ふ。かぐや姫のたまふやうに、違はずつくり出でつ。いとかしこくたばかりて、難波に密みそかにもて出でぬ。「船に乘りて歸り來にけり。」と、殿に告げやりて、いといたく苦しげなるさまして居給へり。迎に人多く參りたり。玉の枝をば長櫃に入れて、物覆ひてもちて參る。いつか聞きけん、「車持皇子は、優曇華の花持ちて上り給へり。」とのゝしりけり。これをかぐや姫聞きて、「我はこの皇子にまけぬべし。」と、胸つぶれて思ひけり。かゝるほどに門もんを叩きて、「車持皇子おはしたり。」と告ぐ。「旅の御姿ながらおはしましたり。」といへば、逢ひ奉る。皇子のたまはく、「『命を捨てゝかの玉の枝持てきたり。』とて、かぐや姫に見せ奉り給へ。」といへば、翁もちて入りたり。この玉の枝に文をぞつけたりける。

 いたづらに身はなしつとも玉の枝を手をらでさらに歸らざらまし

これをもあはれと見て居をるに、竹取の翁走り入りていはく、「この皇子に申し給ひし蓬莱の玉の枝を、一つの所もあやしき處なく、あやまたずもておはしませり。何をもちてか、とかく申すべきにあらず。旅の御姿ながら、我御家へも寄り給はずしておはしましたり。はやこの皇子にあひ仕うまつり給へ。」といふに、物もいはず頬杖つらづゑをつきて、いみじく歎かしげに思ひたり。この皇子「今さら何かといふべからず。」といふまゝに、縁にはひのぼり給ひぬ。翁ことわりに思ふ。「この國に見えぬ玉の枝なり。この度はいかでかいなびまをさん。人ざまもよき人におはす。」などいひ居たり。かぐや姫のいふやう、「親ののたまふことを、ひたぶるにいなび申さんことのいとほしさに、得難きものを、かくあさましくもてくること」をねたく思ひ、翁は閨の内しつらひなどす。翁皇子に申すやう、「いかなる所にかこの木はさぶらひけん。怪しく麗しくめでたきものにも。」と申す。皇子答こたへての給はく、 「前一昨年さをとゝしの二月きさらぎの十日頃に、難波より船に乘りて、海中にいでて、行かん方も知らず覺えしかど、『思ふこと成らでは、世の中に生きて何かせん。』と思ひしかば、たゞ空しき風に任せてありく。『命死なばいかゞはせん。生きてあらん限はかくありきて、蓬莱といふらん山に逢ふや。』と、浪にたゞよひ漕ぎありきて、我國の内を離れてありき廻りしに、或時は浪荒れつゝ海の底にも入りぬべく、或時は風につけて知らぬ國にふき寄せられて、鬼のやうなるものいで來て殺さんとしき。或時には來し方行末も知らず、海にまぎれんとしき。或時にはかて盡きて、草の根を食物としき。或時はいはん方なくむくつけなるもの來て、食ひかゝらんとしき。或時には海の貝をとりて、命をつぐ。旅の空に助くべき人もなき所に、いろ\/の病をして、行方すらも覺えず、船の行くに任せて、海に漂ひて、五百日いほかといふ辰の時許に、海の中に遙に山見ゆ。舟のうちをなんせめて見る。海の上に漂へる山いと大きにてあり。其山の樣高くうるはし。『是や我覓むる山ならん。』と思へど、さすがに畏おそろしく覺えて、山の圍めぐりを指し廻らして、二三日ふつかみか許見ありくに、天人あまびとの粧したる女、山の中より出で來て、銀の金鋺をもて水を汲みありく。これを見て船よりおりて、『この山の名を何とか申す。』と問ふに、女答へて曰く、『これは蓬莱の山なり。』と答ふ。是を聞くに嬉しき事限なし。この女に、『かく宣ふは誰ぞ。』と問ふ。『我名はほうかんるり。』といひて、ふと山の中に入りぬ。その山を見るに、更に登るべきやうなし。その山のそばつらを廻れば、世の中になき花の木どもたてり。金銀瑠璃色の水流れいでたり。それにはいろ\/の玉の橋わたせり。そのあたり照り輝く木どもたてり。その中にこのとりて持てまうできたりしは、いとわろかりしかども、『のたまひしに違はましかば。』とて、この花を折りてまうできたるなり。山は限なくおもしろし。世に譬ふべきにあらざりしかど、この枝を折りてしかば、さらに心もとなくて、船に乘りて追風ふきて、四百餘日になんまうで來にし。大願だいぐわんの力にや、難波より昨日なん都にまうで來つる。さらに潮にぬれたる衣ころもをだに脱ぎかへなでなん、まうで來つる。」との給へば、翁聞きて、うち歎きてよめる、

 呉竹のよゝのたけとり野山にもさやはわびしきふしをのみ見し

これを皇子聞きて、「こゝらの日頃思ひわび侍りつる心は、今日なんおちゐぬる。」との給ひて、かへし、

 わが袂けふかわければわびしさのちくさのかずも忘られぬべし

との給ふ。かゝるほどに、男をとこども六人連ねて庭にいできたり。一人の男、文挾ふばさみに文をはさみてまをす。「作物所つくもどころの寮つかさのたくみ漢部あやべ内麿まをさく、『玉の木を作りて仕うまつりしこと、心を碎きて、千餘日に力を盡したること少からず。しかるに祿いまだ賜はらず。これを賜はり分ちて、けごに賜はせん。』」といひてさゝげたり。竹取の翁、「この工匠等が申すことは何事ぞ。」とかたぶきをり。皇子は我にもあらぬけしきにて、肝消えぬべき心ちして居給へり。これをかぐや姫聞きて、「この奉る文をとれ。」といひて見れば、文に申しけるやう、「皇子の君千餘日賤しき工匠等と諸共に、同じ所に隱れ居給ひて、かしこき玉の枝を作らせ給ひて、『官つかさも賜はらん。』と仰せ給ひき。これをこの頃案ずるに、『御つかひとおはしますべき、かぐや姫の要じ給ふべきなりけり。』と承りて、この宮より賜はらんと申して給はるべきなり。」といふを聞きて、かぐや姫、暮るゝまゝに思ひわびつる心地ゑみ榮えて、翁を呼びとりていふやう、「誠に蓬莱の木かとこそ思ひつれ、かくあさましき虚事にてありければ、はや疾くかへし給へ。」といへば、翁こたふ、「さだかに造らせたるものと聞きつれば、かへさんこといと易し。」とうなづきをり。かぐや姫の心ゆきはてゝ、ありつる歌のかへし、

 まことかと聞きて見つればことの葉を飾れる玉の枝にぞありける

といひて、玉の枝もかへしつ。竹取の翁さばかり語らひつるが、さすがに覺えて眠ねぶりをり。皇子はたつもはした居るもはしたにて居給へり。日の暮れぬればすべ出で給ひぬ。かのうれへせし工匠等をば、かぐや姫呼びすゑて、「嬉しき人どもなり。」といひて、祿いと多くとらせ給ふ。工匠等いみじく喜びて、「思ひつるやうにもあるかな。」といひて、かへる道にて、車持皇子血の流るゝまでちようぜさせ給ふ。祿得しかひもなく皆とり捨てさせ給ひてければ、逃げうせにけり。かくてこの皇子、「一生の恥これに過ぐるはあらじ。女をえずなりぬるのみにあらず、天の下の人の見思はんことの恥かしき事。」との給ひて、たゞ一所深き山へ入り給ひぬ。宮司候ふ人々、皆手を分ちて求め奉れども、御薨みまかりもやしたまひけん、え見つけ奉らずなりぬ。皇子の御供に隱し給はんとて、年頃見え給はざりけるなりけり。是をなんたまさかるとはいひ始めける。

Screenshot

ブログも
お見逃しなく

登録メールアドレス宛に
ブログ更新の
お知らせをお送りさせて
いただきます

スパムはしません!詳細については、プライバシーポリシーをご覧ください。