生きていれば、誰にでも心が折れる瞬間があります。けれど日本人は、折れても必ず立ち上がってきました。金継ぎや武士道の精神に宿る「復活の文化」。その秘密をたどりながら、折れたあとにどう生きるかを、一緒に見つめていきたいと思います。

人には、生きていれば必ず「心が折れる」ときがあります。
失敗した、傷ついた、誇りが砕かれた──
ときには「もうだめかもしれない」と思うほどの痛みを味わいます。

心が折れたら、そりゃあ誰だって幾日もへこみます。
でも日本人は、そこからまた立ち上がる。

ではどうして、日本人は、心が折れても、そこからまた立ち上がることができるのでしょうか。
その答えは、日本の歴史や文化の中に静かに息づいています。

■ 折れたものを捨てず、むしろ活かすという文化

古来、日本では、折れたり壊れたりしたからといって「はい、おしまい」と使い捨てにはしません。

割れた茶碗を「金継ぎ」で繕い、壊れる前より美しい器にするように、
心が折れても、禊ぎ、祓い、礼節を保ち、お詫びをし、反省し、再出発します。

この一連の行動が、日本人をより深い人間性へと導いていきます。

象徴的なのが、将棋の駒です。
相手に取られた駒は盤の外に捨てられるのではなく、
今度は相手側の駒として、再び活躍の場を与えられます。

一度役目を失っても、何度でも立ち上がる。
ここに日本的世界観の核心があります。

■ 赤穂浪士に見る「折れてからの強さ」

12月といえば、赤穂浪士の討ち入りの日があります。

播州赤穂藩は、主君は切腹、城は明け渡し、藩は断絶。
これは武士として最も重い「折れ方」です。
本来なら、そこで彼らは終わりのはずでした。

けれど浪士たちは、そこから立ち上がりました。

折れたままではいられない。
折れたからこそ、守るべきものがはっきりと見える。
その思いで、彼らは再び歩き始めたのです。

ここに日本的精神性があります。

「どう折れたか」は過去の話。
大切なのは、「折れたあと、どう生きるか」。

これこそ武士道精神であり、日本人の底に流れる美意識です。

■ なぜ日本人は再び三度、立ち上がるのか

日本人の「復活力」には、深い根があります。

1 役目はひとつではない

昔は、役目のことを「つとめ」と言いました。
男のつとめは、生きている限り終わりません。

ひとつのつとめが終わっても、また新しいつとめが人を待っています。

2 折れた者を見捨てない文化

日本社会は、再出発の道を必ず残してきました。
それこそが「生きる」ということだと考えられてきたのです。

3 折れることを敗北ではなく「間(ま)」と考える文化

折れたときこそ、人は考え、見つめ直し、次の準備をします。
やってみなければわからず、やってダメならまた考え、挑戦する。

折れることは、成功のための大切な「間」です。

■ 私たちもまた折れながら立ち上がる

私自身、心が折れる朝があります。
落ち込んで、何も手につかず、気力も湧かない。
そんな日は誰にでもあります。生きているからです。

けれど、時間が少し経つと、また立ち上がろうとする心が芽生えます。

それは「気合い」や「根性」といった派手なものではありません。
もっと静かで、本質的な「魂の反応」のようなものです。

日本文化は折れたものを捨てず、
折れた人を切り捨てず、
折れた心を恥じず、
そこから美しさを生み出してきました。

折れることを成長の糧としてきた民族だからこそ、
静かに、笑顔で、また立ち上がるのです。

江戸時代の「親父の小言」に、こんな言葉があります。
人には馬鹿にされていろ

私は、この言葉がとても好きです。
折れながら、それでも立ち上がって生きていく姿こそ、人の強さだからです。

■ 折れた経験は、人を強くする

折れたから弱いのではありません。
折れたからこそ強くなれるのです。

人は誰でも、何度でも立ち上がることができます。
何度折れたって、また歩き出すことができます。

それが、日本男児の「復活の精神」です。

日本もまた同じです。
戦後占領され、30年間の不況を経験しました。
だから、日本もまた立ち上がります。

折れて、また立つ。
それが日本人の生き方です。

【所感】

折れるという経験は、決して歓迎すべきものではありません。
泣けるし、へこむし、何もかも嫌になるし、お先真っ暗に思えます。
それでも折れた瞬間に、人は自分の弱さと向き合い、
その弱さの奥にある強さを知ることがあります。

日本文化は「折れること」を恥とせず、
むしろそこから立ち上がる姿こそ尊いと教えてきました。

私自身もまた、折れながら立ち上がる生き方の途中にいます。
同じように道を歩むどなたかの背中を、
そっと押す言葉になれば嬉しく思います。

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