「価値」は、自分の中だけにあるものでも、相手の中だけにあるものでもありません。日本では古くから、人と人との「あいだ」に新しい価値が生まれることを「結び」と考えてきました。『古事記』の山幸彦の物語を手がかりに、日本人が大切にしてきた「Relation」の世界を、一緒に探ってみたいと思います。

_
Relationは、「私」と「あなた」のあいだに新しい可能性を生み出す。
「私」と「あなた」。
現代社会では、この二人を別々の存在として考えることが多くあります。
「私はどう思うか。」
「あなたはどう思うか。」
もちろん、それも大切です。
けれど、日本には昔から、もうひとつの見方がありました。
それは、「私」と「あなた」の《あいだ》に目を向けるという考え方です。
人と人が出会い、言葉を交わし、互いに耳を傾ける。
そうすることで、一人で考えていたときには存在しなかった新しい考えや、新しい喜び、新しい道が生まれる。
価値というものは、「私」の中だけにあるものでも、「あなた」の中だけにあるものでもありません。
両者の「関係(Relation)」の中に、新しい価値が立ち上がる。
日本では、これを「結び」と呼びました。
そして、人が生きるうえでもっとも大切なものは、その「結び(Relation)」にあると考えられてきたのです。
だから「結び(Relation)」とは、ただ仲良くすることではありません。
お互いの違いを認め合い、その違いを響き合わせることで、一人では生み出せなかった未来を共につくることです。
私は、日本の神話も歴史も、すべてこの「結び(Relation)」の延長線上にあると思っています。
日本の物語の特徴は、勝利を得ることより、『何を結び、何を受け継ぐのか』を描こうとしている点にあるように思えるのです。
たとえば山幸彦は、最後には海幸彦に勝ち、絶世の美女・豊玉毘売を妻としました。
ここまでなら、海外の英雄譚と変わりません。
ところが、その後が違います。
豊玉毘売から「見ないでください」と言われていた出産の場面を、山幸彦は、つい覗いてしまう。
その結果、妻は海へ帰ってしまいます。
さらに妻からは、「もう一度一緒に暮らしたい」とも読める歌が送られてくるのですが、山幸彦は、その想いに気づきません。
なんとも不器用で、英雄らしくない主人公です。
それでも山幸彦は、しっかりと子を育て、天孫の霊統を守り抜きます。
夫婦としての結びがほどけても、ご先祖から未来へ続く結び(Relation)は、決して手放さなかったのです。
個人の人生には、喜びも悲しみもあります。
思いどおりにならないことも少なくありません。
それでも、生涯を通じて「何を結んでいくのか」。
それが『古事記』が私たちに投げかけている「問い」なのだと思います。
だからこそ、その「結び」が神武天皇へ、そして今日へと受け継がれてきたのです。
歴史もまた、人と人との結びが積み重なって紡がれるものです。
未来もまた、一人でつくるものではありません。
「私」と「あなた」のあいだから、新しい未来が立ち上がる。
それこそが、日本人が「結び」を大切にしてきた理由なのかもしれません。
そのことに気づいたとき、私たちの毎日の会話も、仕事も、家庭も、そして社会も、
少しずつ違った景色に見えてくる。
私は、そのように信じています。
——今日も良い一日を♪
_
■新刊 大好評発売中
これが私の集大成本です。
『思想の時代は終わった』
https://amzn.to/3P5D0lS

_


